新奇光感受性物質PLPによる光線力学療法がオートファジーの働きでがん細胞を選択的に破壊することを解明

「重川 極限量子計測技術開発研究プロジェクト」の研究成果がプレスリリースされました。 

 新しい治療法である光線力学療法(PDT)に新奇光感受性物質ポリフィリポプロテイン(PLP)を用い、正常細胞とがん細胞への効果を観察しました。その結果、PLPはオートファジーのメカニズムによりがん細胞を選択的に破壊することを発見しました。効果的ながん治療につながる画期的な成果です。

 がんは1981年以降現在に至るまで日本人の死因の第1位です。現在は主に手術療法、化学療法、放射線療法が治療に用いられていますが、これらは術後のQOL(Quality of Life)が大きく低下するため、新しい治療法の開発が強く望まれています。光線力学療法(PDT:Photo Dynamic Therapy)は、他の治療法に比べ侵襲性が低いとして注目されている新しい治療法です。PDTではまず体内に光感受性物質を投与します。次に、患部に光を照射し、光感受性物質に光化学反応を引き起こして活性酸素(ROS)を発生させ、がん細胞を壊死させます。PDTの性能向上には、光感受性物質ががん細胞に特異的に集積し、ROSががん細胞だけを効率よく壊死させるメカニズムの解明が必要不可欠です。

 本研究では、近年開発された光感受性物質ポルフィリポプロテイン(Polphylipoprotein:PLP)に注目しました。高い治療効果を持った光感受性物質ですが、そのメカニズムは分かっていませんでした。

 正常細胞のラット胃上皮細胞株RGM1と、同じ由来のがん細胞であるラット胃粘膜由来がん様変異体RGK1を用い、PLPによるPDTの効果の違いを共焦点超解像顕微鏡で詳細に観察しました。その結果、ファゴソームと呼ばれる細胞内小胞の膜上にPLPが蓄積することが明らかになりました。ファゴソームは、細胞内の異物やタンパク質などを分解して再利用するオートファジー機構の初期に生成されます。増殖が激しいがん細胞が飢餓状態にあるとオートファジー機構が進みます。そこでPDTを行うと、RGK1ではファゴソーム膜が破れ、タンパク質などを分解する加水分解酵素やROSなどの内容物が細胞内に拡散し、細胞は壊死しました。これに対しRGM1では、小さなファゴソームが合体して大きなファゴソームを形成しましたが、ファゴソームは破壊されませんでした。

 つまり、PLPががん細胞を選択的に壊死させ高い治療効果を生じさせるのは、飢餓状態にあるがん細胞がオートファジー機構を進行させ、分解された内容物を用いてがん細胞を壊死させるユニークで新しいメカニズムであることが明らかになりました。この発見は、PLP-PDTの高い選択性と潜在的な効果を含め、治療のさまざまな側面について新たな方針を与えるものと言えます。

研究代表者

筑波大学 数理物質系物理工学域/イノベイティブ計測技術開発研究センター
重川 秀実 教授