ナノメートルの世界で電子が織りなす1兆分の1秒の世界を可視化
「重川 極限量子計測技術開発研究プロジェクト」の研究成果がプレスリリースされました。
超高速量子ダイナミックスの制御と局所分光・可視化
街では車やスマートフォンを手にする人々が行き交い、空には飛行機が、そして家に戻ると多くの電気製品に囲まれた生活があります。こうした当たり前となっている日常の光景、便利な暮らしの多くは、半導体工学やオプトエレクトロニクス(光電子工学)技術のおかげです。より小さく、より速く。世界を今日の姿に発展させ、その基盤となり支えてきた技術です。
しかし、例えば、電子機器などの機能を生み出す半導体素子の単位は10ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)を切る領域に入り、更なる微細化の難しさなど、その進歩故に現れる壁を意識せざるを得ない状況にあるのも事実です。これまでも幾度となく、技術を高め、研ぎ澄ますことで困難を乗り越えてきましたが、そろそろ、新たな道を拓くことが必要になっています。こうした要求に応えて現状を打開するには、機能を生み出す物質中の電子の極めて速い挙動を原子レベルで捉える技術の開発がとても重要になります。
本研究では、物質の表面の原子構造や電子の状態を原子1個のサイズで調べることができる高い空間分解能(2点を見分ける性能)を持つ走査型トンネル顕微鏡法(STM)と、1ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)の時間分解能を持つレーザー技術を用いた分析法を組み合わせることで、C60フラーレン(炭素原子のみで構成されたサッカーボール型の分子)を並べた薄い膜の中に注入された電子が、ナノメートルのスケールで織りなす超高速ダイナミクス(挙動)を可視化することに世界で初めて成功しました。
今回の成果を踏まえ、フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒)の時間領域で現れる更に高速な現象を捉えることや、細胞や細胞を形作る分子を解析することなど生物分野への応用も念頭に置き、本手法の開発を進めています。
<研究代表者>
重川 秀実(数理物質系 教授)
吉田 昭二(数理物質系 准教授)
<PDF資料>
<論文>